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こがさでずむ

久々に創想話
次回は秘封を予定しております


 うらめしや。
 怪談に登場するものとしては、あまりにも有名すぎる一言。
 そう、幽霊が生者に向ける怨嗟とか羨望とかそういったものを含んだ言霊。
 子どもの肝試しの模造ですら登場する、呪い文句。
 逆に、今ではそう語る幽霊も少なくなった。
 ここは、幻想郷。
 妖怪に慣れた人間たちは、ちょっとやそっとでは驚かない。
 故に、幻想郷でさえも旧い物として忘れられかけていた。
 幽霊の言霊なのに、死にかける。
 恨めしや。




 不審な妖怪がいた。
 平行に走る一本の通りにある食堂の位置から家を数え、その裏の通りへと向かう。
 それを、何度も何度も繰り返している。
 かくれんぼをしている訳でも、鬼ごっこで膠着状態になったわけでもない。
 水色の目立つ出で立ちに、晴れているのに紫の傘。
 加えて、時々腕組みをしながら眉間に皺を寄せて思考。
 どうみても、怪しい。
 しかし、不思議と凶悪感はないために里の住人は興味を持ちこそすれ、警戒はしていなかった。
 謎の妖怪が気にしている通りは、飲食店が並んでいる。
 空腹なのだろうか?
 
「……やっぱりないなぁ」

 どうやら、何かを探しているらしい。
 今度は、通りの中へ。

「こっちが裏で、表は……呉服?」

 青と赤の目を瞬かせて、またも眉間に谷を作る。
 首を傾げ、それに伴い傘の舌もだらしなく垂れ下がる。
 小傘はともかく、傘は大変分かりやすい唐傘。
 晴天の真昼間、それも人通りが多い里にいるとどうしても浮いてしまう。
 結果、

「お嬢ちゃん! 焼き鳥どうだい!」
「何いってんだい! うちの団子に決まってるよ!」
「いらっしゃいお嬢さん。綺麗なべべが揃ってるよ。どうだい?」
「え? え?」

 盛大な売り込みを受けてしまった!
 良くも悪くも、妖怪その他の人間以外が犇めく幻想郷。
 時間外れのお化けなど、可愛い客にしか見えていないのであった。




「うう、ひどい目にあった」

 着せかえ人形にされ、試食を大量に詰め込まれ、さらには土産まで持たされてしまった小傘である。
 なけなしの小遣いも、素寒貧。
 小傘は、別に江戸っこでもなんでもない。
 宵を越しても、明日の楽しみのために取っておきたい性分なのだ。
 
「南無」
(南無)
「南無です」
「南無だね」
「南無三」
「嬉しくないよ」
「……」
「水蜜が! 水蜜が天に!」

 小傘は、不要の土産を勝手に居候している命蓮寺一同に渡した。
 小傘の食事は、「びっくり」させることで満たされる。
 食物を詰め込んだところで、空腹は埋められない。
 苦しいだけだ。

「で、何で人里なんか行ってたの?」
「えーと、緑色の巫女がわちきにね」

 小傘は、事の顛末を説明する。
 「うらめしや」のくだりを一通り。
 一輪は、団子を食みながら。
 雲山は、興味もなく。
 水蜜は、若干成仏しながら。
 星は、砂肝をコリコリと噛み砕きながら。
 ナズーリンは、唐草模様の風呂敷に宝塔を包みながら。
 白連は、いつものように笑顔で真摯に聞いた。
 
「……というわけなの」
「ふーん」
「何その気の抜けた返事!」
「で、その巫女が恨めしいって?」
「というより、驚かせてやりたい」
「小傘は、うらめしや~で怖いと思う?」
「思う」
「そう……」
「だから、その目は何なの?! さげずむ?!」

 ヒートアップする小傘に対し、冷静すぎる命蓮寺一同。
 
「なんで、お蕎麦なんだろうね」
「美味しいのにね」
「アレじゃない? 饅頭怖い的な」
「あー」
「あー? 蕎麦が怖いの?」
「えっうん。そうそう」
「じゃあ、蕎麦を作る!」
「がんばってねー」
「聖って時々、話をちゃんと聞いてないんじゃないかと思う」
「それは失礼だよ。ご主人様」





「寅丸とー」
「多々良のー」
「「料理教室ー」」
「わー」

 非常にやる気がない。
 小傘だけは、例外である。
 本気で、蕎麦で人を怖がらせることができると思っているのだ。 
 対する星は、面倒という感情を前面に押し出している。
 ちなみに、二人とも割烹着を着用している。

「じゃ、今日蕎麦を作りまーす」
「はーい」
「まずは、蕎麦粉に水を少しずつ加えながらこねます。一気に入れてしまうと、まとまりにくくなってしまいますので注意しましょう」
「はーい」
「あ、別にベタな展開なんていりませんからね。ゆっくりと進めていきま」
「くしっ」

 くしゃみで巻き上がる蕎麦粉。
 星は、予想だにしない展開に腕まくりの体勢のまま硬直する。
 小傘の顔付近に漂う煙幕が晴れるまで、しばし料理教室は中断。
 そして、それが晴れた時に一同はさらに驚く。
 絵本に出てくるのっぺらぼうのように、顔の全てが真っ白になっていた。
 普通、蕎麦粉をまぶされただけではここまで真っ白にはならない。
 おそらく、くしゃみの勢いで蕎麦粉に顔ごと突っ込んだのだ。
 今時、芸人ですらやらないようなベタなネタだ。
 しかも、狙ったのではなく天然。
 ここまで、古典的な妖怪もいない。
 
「? どしたの?」

 自分の現状がわかっていない一言で、命蓮寺の一線は断たれた。

「ぷっはははははは!」
「あははははは!」
「?! どしたの?!」
「はい、鏡」
「ひぃっ?!」
「自分が驚いて、どうするのですか。それでも妖怪ですか」
「ご主人様、ここは説教するところじゃないと思うよ」

 このハプニング以降は、滞りなく調理は進んだ。
 途中で飽きた水蜜が、闇鍋のごとく特殊な食材を入れようとしたが白蓮に阻止されたりはしていた。
 聖は、食べ物に厳しいのである。
 お残しは、許されない。

「そんなわけで完成です」
「わーい」
「普通の蕎麦だー」
「鯛とか無いの」
「無いです」
「わーご主人冗談通じないねー」

 最も基本となる、かけそばである。
 具材は、ネギのみ。
 お好みで七味をどうぞ。
 
「ごちそうさま」
「それなりに美味しかったよ小傘」
「初めて作ったにしては、とても美味しかったわ」
「むふー」

 胸を張る小傘。
 
「水を差すようで悪いですが、これのどこが怖いんでしょうか……」
「小傘が、飯屋の裏で蕎麦屋でも開けばいいんじゃない?」
「丑三つ時とか限定で?」
「さすがに、それは需要ないわねえ」
「そしたらさー」

 一輪は、余った蕎麦粉に少し水を垂らしてこね出す。
 そして、白粉のように小傘の顔にぬりたくる。
 
「むがが! 何するの!」
「こーしてこーやって……できた」

 先ほどより、もっと顔の凹凸が薄くなったのっぺらぼうが完成した。
 もちろん、一輪の技術によって空気穴などは作成されている。
 匠である。

「これで、薄暗がりにうらめしやーでもすればいいんじゃない?」
「今、私どうなってるの?」
「緑の巫女にうらめしやした後に、鏡を見るといいよ。乾いたらひっぺがしてね」
「おー蕎麦粉怖い蕎麦粉怖い」
「怖い?! じゃあ、行ってくる!」
「あっ」
 
 小傘は、威勢良く命蓮寺を飛び出した。

「あーあ、行っちゃった」
「思うに、あれだけ明るい色のお化けもないよね」
「あれも、出会い頭だけだと思うけどね」
「蕎麦残ってるのに……」
「ご主人様、ずれてるずれてる」
「あらあら、じゃあみんなで食べちゃいましょう」
「そうしましょ」
「いただきます」
「そういえば、雲山は?」
「あ、湯気に混ざって散り散り」
「一輪早く集めてー!」



 ところ変わって、人里。
 裏表に飯屋溢れる飲食街。
 黄昏から宵闇に移る刻限、水色に紫を抱えた影がある。
 どの時間であっても、彼女は浮いている。
 ゆえに、また人目を引いた。

「おっ、昼の嬢ちゃんじゃないか。今度は、うちの饅頭を……」
「お饅頭?」

 饅頭屋の主人に声をかけられ、振り返る。
 
「おう! 里一番の味だぞ!」
「それ私のお蕎麦よりも、美味しいの?」
「ほっぺたが落ちるかもな!」
「そんなに……?」

 豪快な笑顔を浮かべていた、主人の顔から表情が消える。

「あ……あぁ……」
「それはそれは……とっても……」

 目が見開かれ、年の暮れも近いというのに冷や汗が流れる。
 あり得ないものを、見るかのように。
 つるりと、目鼻がはがれて落ちたただ白い顔を。

「う ら め し や」
「ひぃぃぃ! 出たああああ!」

 妖怪相手にも商売をしている男は、そのまま白目を剥いて卒倒した。




「うまくいった。うまくいった!」

 小傘は、あの場から速やかに離脱して命蓮寺への帰路についた。
 手に持っているのは、乾いてひび割れた蕎麦粉の面。
 小道具はあれど、小傘は久しぶりの食事にご満悦である。
 
「明日は、これを使って緑巫女に逆襲だ!」

 悪戯を思いついた子供のように、小傘は笑う。
 有効であるはずの策は、東風谷早苗に向けて同様に用いられるだろう。
 果たして、小傘の「お化け」は妖怪退治の味を占めた巫女に通用するのだろうか。
 彼女の明日はどっちだ。





不続。

2009.12.15 | | Comments(0) | Trackback(0) | 未分類

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