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軽井沢の小傘

軽井沢に職員旅行でいって、傘を忘れた記念で書きました。


 夏の盛り。
 西の空には、大きな入道雲が育っている。
 夕刻には、通り雨が降るだろう。
 時折降り注ぐ、弾幕の雨にご注意ください。


「人を脅かす方法を知りたいぃ?」

 そんな日のこと。
 霊夢は、とある妖怪より相談を受けていた。
 妖怪退治の総本山に、妖怪が相談に来る時点で何かがおかしいが気にしてはいけない。
 今日も、幻想郷は回っているのだから。

「完」
「えっ、何?!」
「冗談よ」
「何よ、もう」
「ほら驚いた」
「あ」

 茶を啜り、ため息をつく巫女。
 人を脅かすなぞ、容易いと言わんばかりの態度。
 一方は、唖然とした表情のままで、何やら傘の裏に書き込んでいる。
 そして、傘から伸びる舌は荒れ狂うように動き、唾液を撒き散らしている。
 まるで、雨だ。
 霊夢は、結界を張って対処。
 彼女の傘の裏は、影か墨か漆黒に染まっている。
 もしや、覚書で埋め尽くされているのだろうか。
 
(あれ、読めないんじゃないかしら)

 なんとも、微笑ましい過ちである。
 彼女が、餓える日も近い。
 こんな脆弱に見える妖怪でも、執念で化けることがある。
 まぁ、もう傘から化けているのだけれど。

「なんで、ウチの神社はこんな相談ばっかりなのかしら」
「何か言った?」
「何匹か、紹介してやってもいいって言ったのよ」
「ほんと?!」
「押し付けるとも言う」
「ガーン!」
「アンタ、本当に面白いわね」
「うぅー」
「ところで、なんでウチの神社なのよ。山の上でも、行けばいいじゃない」 
「あいつ嫌い」
「ふーん」

 生まれたばかりの妖怪でも、ここまで人間に手玉に取られるのはそういない。
 それでなくとも、幻想郷の人間は妖怪に慣れている。
 驚かすことは、一筋縄ではいかない。
 ましてや、こんな真昼間に正面から「うらめしやー」である。
 そんなのでは、子供すら脅かせない。

「ところで、なんで協力してくれるの?」
「実害がなさそうだから」
「……ぐすん」






紹介先ノ壱 風見幽香


「幽香ーいるー?」
「こんにちはー」
「なぁに、この子」

 真横から現れ、幽香は小傘の頬を引っ張った。
 餅のように伸びる。

「生まれたてホヤホヤ気味の、傘の子よ」
「生意気に傘なんか持っちゃって、私の前でいい度胸だわ」
「意味がわからないわ。ひまわり妖怪に、傘なんかいるの?」
「ひまわり妖怪じゃないわよ。失礼ね」
「ひだだだだだ!」

 なんとか、幽香を振り払い霊夢の陰に隠れる小傘。
 まるで、ただの子供のようだ。

「……本当に妖怪?」
「たぶん、きっと、おそらく、もしくは……」
「むにー」
「いだだだだだ! さでずむ! さでずむ!」
「大当たり」

 完全に、玩具である。
 
「ところで、なんで私のところなのよ。亡霊のとことか行けばいいじゃない」
「傘つながり」
「それだけ?」
「うん」

 伸びる頬、溢れる涙、響く悲鳴。
 これだけ書くと、虐待のように見えるが単なる戯れである。
 実際のところ、幽香はほとんど力を入れていない。
 もちろん、「幽香の感覚で」という前置きが付く。

「ともかく、驚かせたいなら血まみれにでもなればいいんじゃない?」
「それじゃ、びっくりより恐怖が先に立つじゃない」
「相手が引けば、勝ちよ」
「頭割ろうとすんな。祓うわよ」
「えー。じゃ、家畜の血でも塗っておく?」
「なんで、そんなの持ってるの」
「聞きたい?」
「……遠慮しとく」

 愉快そうに笑う幽香を見て、小傘はたまらず逃げ出した。
 意外と早い。
 そして、地面に蹴っ躓いて顔面から飛び込んだ。
 無論、むき出しの地面に。

「きゃああああああああ!」
「……」
「…………」
「これ、もういらないかしら」
「多分ね……」
「せっかくだし、霊夢どう?」
「いらんわ」

 


紹介先ノ弐 上白沢慧音


「ごめんくださーい」
「ぐすんぐすん」
「! …………永遠亭なら、妹紅を呼ぼうか」
「小傘、こいつ今驚いたわよ」
「嬉しくない……」
「なんなんだ、一体……」

 押しかけビックリである。
 意味は、特に無い。

「で、なんだこの子供は」
「あ、わかる?」
「あつっ!」

 猫舌でもあった。
 弱点が多すぎる。

「妖怪でもこっちは平気だが、いきなり血塗れだと不審者どころじゃないぞ」
「悪いのは、向日葵畑のアイツよ」
「……あぁ」
「ヒリヒリする……」

 小傘に向けられる、四つの瞳。
 湛えるのは、哀れみである。
 おそらく、最も退治されやすい妖怪の一体だ。
 霊夢あたり、ちょっと母性本能が疼いたりする。
 
「ところで、誰か脅かせたことあるの?」
「んー。そこらの子供とか、動物とか」
「動物って……」
「やっぱり、アンタは修行しないと駄目ね。弾幕ごっこなんか、してる場合じゃないわ」
「幽香は、正直修行の相手に向いてないと思うぞ」
「じゃあ、どこがいいのよ」
「…………八雲のところか、それとも赤い館か」
「私、今無視されてる?」
「古典の怖い話とか、教えてやればいいんじゃないの? 百物語とか」
「古典怪談と言っても、広まってるのばかりだぞ」
「勉強してるらしいわよ? 傘の裏で」
「……あれ、呪詛じゃなかったのか」

 呆れながら、慧音は書架を探す。
 巻物と平綴じを、少しだけ抱えて戻ってきた。

「まぁ、化けた唐傘なんてあまり居るモノじゃないんだよ。付藻神だし」
「妖怪でしょ?」
「ほとんど違いはないな」
「……?」
「しかし、脅かす方法か……正直、脅かすとすれば正体不明であるのが一番なんだがな」
「え、何か関係あるの?」
「そりゃあ、正体がわからんものに襲われるのが一番怖いだろ?」
「針をぶち込めば、済む話よ」
「お前は、ちょっと黙ってろ」
「ひどい話だわ。人間よ? 私」
「で、私が思うにだな……」

 霊夢は、妖怪退治に慣れきった人間だ。
 ちょっとやそっとのことでは、驚くことが無いのだろう。
 全く、参考にならない。

「と、こうすればいいんじゃないか?」
「ふんふん、なるほど」
「傘の裏に書くなよ……潰れて読めなくなってるじゃないか」
「え? ……ああっ! 本当だ!」
「気づいてなかったのか」
「……ぐすん」
「ちなみに、何の古典を読んでたんだ? 興味がある」
「これ……」
「ん、耳なし芳一か。有名どころだな」
「怖くて、途中までしか読めてない」
「駄目だろう」

 ごすっ。
 寺子屋名物頭突きである。
 結構痛いという評判。
 現在の体験者は、半身とも言える傘を放り投げて転げまわる。
 実際のところ、妖怪と人間は弾幕ごっこが戦いの主流。
 こんな風に、実際に傷つくのは珍しいかもしれない。
 貴重な経験を積んだ。
 また一つ、食料に近付いた。

「おめでとう!」
「嬉しくない!」
「こいつの額、意外と硬いからそっちでいけないかな?」
「あんたじゃないんだから。こいつ肉食わないし」
「そうだよなぁ。じゃあ、お気に入りの怪談でも喋ってやろうか。耳袋」
「どうせ、うらめしやもその辺から取ってきたんでしょ?」
「違うもん! お化けから聞いたもん!」
「お化けって誰よ」
「桜色の髪の」
「アンタ、そいつに会ったら死ぬのよ」
「ええええええええええ?!」
「ま、亡霊だしな。死にやすくなるのは本当らしい」
「やだあああああ!」
「傘まで泣いてる……」
「神秘ね」

 霊夢は、唐傘の妖怪は傘だけなのではないかと思い始めた。
 小傘(人型)は、恐らく移動手段。
 本人は、いいように操られていることを知らずにいる。
 と、ここまで考えて霊夢は涙した。

「不憫な……」
「えっ、何?」
「考えることは、大体想像が付くが……違うと思うぞ」
「騙したわね!」
「あっ?! 痛い痛い! 何? 何なの?!」

 退治された。
 幻想郷に、平和が訪れた。
 ……しかし、この先同じようなことが起きないとも限らない。
 霊夢は、改めて鍛錬を怠ってはならないと感じた。
 この私が、騙されたのだと。
 次の妖怪が生まれる、その時まで。
 霊夢の修行は、ここから始まる!

「何やら、考え込んでいるところ悪いが」
「何よ」
「家の前を通った里の者が、お前の所業を見ていってだな」
「うん」
「恐らく、また変な評判が立つかと」
「…………」
「うぅ……ぐすいたたたたた! やだ! さでずむやだ!」

 とりあえず、頬をつねった。




紹介先ノ参 ?

「で、私の出番なわけね!」
「呼んでないけど」
「まぁまぁ、どうせ持て余してるんでしょ?」
「…………」
「妖怪を一日中引っ張りまわして、涙枯れ果てさせるなんてよっぽどよ」
「退治したほうが早かった」
「禅でも組んでくれば?」
「嫌よ。めんどくさい」
「でしょうねー」

 当の小傘は、神社の畳に横になっている。
 返事がない、ただの傘のようだ。
 妖怪が、ここまで疲弊するのも珍しい。
 本当に辛かったのだろう。
 生まれたてなら、仕方ないのかもしれない。

「まぁ、驚かせるのなら簡単よね」
「嘘吐いたら、針よ」
「雰囲気の問題よ。昼とか夜とかは、あまり関係ないわ」

 突如、神社が闇に包まれる。

「え? 何?!」

 跳ね起きる小傘。
 夜には、少し足りない宵闇。
 妖怪の目なら、この程度は昼と変わらないが影が濃い。
 だが、そこに何かが居るかのように思わせる。
 小傘は、傘を盾にしてそろりと進む。
 先まで、昼間だった場所とは思えない。
 何故か、霊夢ともう一体の妖怪の姿もない。

「こうはく~……?」

 今更ながら、名前も知らない小傘だった。

「……ごくり」

 古典にも、こんな怪談は載っていなかっただろう。
 寝てもいないのに、昼が夜になることはありえない。
 しかし、ここは幻想郷。
 ありえない事なんか、存在しないのだ。
 小傘は、とりあえず部屋の隅に陣取った。
 ここならば、何が来てもわかる。

「ついてない……」

 霊夢に相談する辺り、最高についてなかったのかもしれない。
 小傘、本日何度目かの災難。
 神に、厄でも祓ってもらえばいいと思う。
 しかし、祓われたら小傘はどうなるのだろう。
 傘に戻るとしたら、それもまた不憫。
 辺りを見回して、どこから来るのか身構える小傘。
 外。
 部屋の中。
 天井。
 そして、ゆっくり視線を戻す。
 そこには、逆さの……

「ばぁ」






「……という風に、要は雰囲気さえあればいいのよ」
「聞こえてないみたいよ」
「まるで蟹ね」
「ぶくぶくぶく」
「……ま、コツは教えたから帰っていいかしら?」
「いいんじゃない?」
「じゃあねー」
「はいよー」







「はっ!」
「ようやく、起きたわね」
「わかった! わちきは、何かを見た也!」
「キャラ作った上に、わかってない」
「コツは、掴んだ! あのキンパツの妖怪はいい奴ね」
「あーうん。賢者だけどね」
「………………うん?」
「年食ってるってことよ。さ、わかったなら帰ってちょうだい」
「わかった! どうもありがとう!! 次にあったら見てなさいよ!」
「どっちかに絞れ、どっちかに」

 小傘は、階段を転がり落ちるように去っていった。

「あぁー!」

 正しくは、転がり落ちた。
 最後の最後まで、お約束を忘れない妖怪である。

「ねぇ、紫」
「なーにー」
「逆さに生えるな。あの妖怪、脅かすより笑わせる方が向いてるんじゃない?」
「ま、愛されるのはいいことよ」
「ふーん」
「私は、愛してるわよ?」
「いっそ娘にでもしたら?」
「いやよ。贔屓になるじゃない」
「ま、弄る分には楽しいわ」
「ほどほどに、しておきなさいよ」
「……もし、早苗のところに行ったらどうなると思う?」
「大事に至る」
「そうね。そろそろ、ご飯の支度をしないと」
「冷たいのね」
「そうよ」
「氷精なのね」
「違う」
「……笑わせるのと、脅かすのってどっちが難しい?」
「そりゃ当然」






「笑わせることよ」






「末恐ろしいったら、ありゃしないわ」
「彼女も、立派な妖怪ってことよ」



完?

2009.09.14 | | Comments(0) | Trackback(0) | SS

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