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「厄神様」

創想話投稿済


 流れ流るる流し雛
 何を載せて、何処へ行く
 何に乗って、何処へ逝く
 
 穢れ穢れた流し雛
 迷い逸れて、たどり着く
 厄神様の通り道
 
 
 ∬∬∬
 
 
 樹海の入り口。
 まだ、薄暗い中に青白い雪を残している。
 地面はぬかるみ、よほど危急の用でもなければ誰も踏み込もうとは思わない。
 ただ、桃の節句である今日だけはいつもと違う光景があった。
 樹海の入り口の周りに、山と積まれた人形たち。
 紙や木、はたまた本物の雛人形まで。
 材質はおろか、大小までも不揃いな人形の山。
 毎年、桃の節句にのみ見られるこの光景。
 ひな祭りの元となった、古い習慣。
 流し雛である。
 
 
 本来、流し雛は川に流される。
 竹の舟に乗せ、自分の穢れを人形に託すのだ。
 しかし、幻想郷には「厄神様」がいる。
 そして、その棲家は妖怪の山の麓にある樹海の中。
 樹海の中を流れる川もないことは無いが、それは妖怪の山まで行かなくてはならない。
 そういった事情から、幻想郷の流し雛は樹海の入り口に集められた。
 全ての人形が樹海に向かい、積まれている。
 見るものが見れば、投棄されたと見えても無理はない。
 しかし、淀んだ空気がそれを近寄りがたい場所にしていた。
 
 
「おい、本当にやるのか? やめとこうぜ」
「なんだよ、意気地なし。いいぜ、お前は帰ったって」
「そうだそうだ。年に一回だけなんだぞ。厄神様が見れるのは」

 積まれた人形から、少しばかり離れた茂みの中。
 そこにいるのは、数人の里の子ら。
 「厄神様」のことは、親や寺子屋で聞いて育ってきた。
 
 樹海に住む「厄神様」は、人間の厄を持っていってくださる。
 しかし、その後を尾けることなかれ、近寄ることなかれ。
 さもなくば、その身に数多の不幸が降りかかる。
 「厄神様」の道は、彼岸に続く黄泉路なり。
 逢ってしまえば、二度と帰れぬ。
 
 と。
 呪いにも似た言い伝えは、少年たちの好奇心をいたく刺激した。
 長く生きた大人でさえも、ほとんど見たことがない「厄神様」。
 かくして、流し雛を行う本日にその目論見は決行されたのである。
 子どもたちは、「厄神様」を見たら帰ろうとこの時までは思っていた。
 
 
 ∬∬∬
 
 
 弥生ともなれば、黄昏時も少なかれ遅くなる。
 ほんの一月前までは漆黒に塗りつぶされた時間帯も、未だ夜目いらずの明るさがある。
 しかし、寒さだけはまだ冬のそれ。
 そろそろ、子どもには厳しい。
 
「なぁ……今日は来ないんじゃないか?」
「うん……帰ろっか」
「へっく」
「しっ!」

 少年らしき少年が、クシャミしかけた子の口を塞いだ。
 樹海の入り口に、それまではなかった人影がある。
 
(「厄神様」……!)

 ついさっきまで、明るかったのが嘘のように空が暗くなる。
 陽が、山の陰に入り始めたのだ。
 「厄神様」の顔は、窺い知ることはできない。
 少しうつむき加減の彼女は、闇にも溶けぬ異質な出で立ちであった。
 赤と黒の服に、前で結わえた深緑の髪。
 子どもたちは、息を殺して彼女を見た。
 「厄神様」が、気づいた様子はない。
 周囲を一瞥すると、驚いたことに流し雛たちが立ち上がった。
 
(……!!)

 子どもたちは、思わず声を出しそうになる。
 アリスという人形師が、生きているかのように人形を操ることは見たことがある。
 が、あれは操るための糸が見えていた。
 生きていないということを、知っていたからこそ楽しめたのである。
 疑問にも、思わなかった。
 此度の光景は、宵闇に乗じて糸を見えづらくしているということもない。
 もし、隠していたとしても数十もの人形を同時に動かすことなどできはない。
 「厄神様」は、最後に一瞥して森へと消えていった。
 入り口にいた、流し雛全てを率いて。
 その光景に目を奪われた子どもたちは、しばらくその場から動けなかった。
 
 
 ∬∬∬
 

「お、追いかけよう!」
「バカ! 「厄神様」が本当にいたんだ! あの話だって本当だろ!」
「そうだ! 追いかけたら死んじゃうんだぞ!」

 子どもたちのうち、一人を除いて彼女のことを追おうとする者はいなかった。
 迷信だと思っていた、大人の言葉が脳裏を過ぎる。
 
 「厄神様」に、近寄ることなかれ。
 さもなくば、その身に数多の不幸が降りかかる。
 
 誰も、それを疑うことはできなかった。
 
「へんだ、意気地なし!」

 意地からか、好奇心からか一人だけ「厄神様」の後を追う。
 止める間もなく、誰も追おうとしない。
 もうすぐ、山の向こうへ陽が落ちる。
 妖怪の時間が、来る。
 
 
 
 樹海は、夜になって姿を変えた。
 今宵は、月も出ていて行灯が無くとも見えるほど明るい。
 その月明かりも、樹海の中までは届かない。
 木の葉が擦れる音が響き、見えるものは僅かな地肌の色。
 どうみても、危険極まる。
 妖怪が出るとか、そのようなものよりも遭難の危険のほうが高い。
 
「ひっく……ぐす……」

 最初の威勢は、どこへやら。
 少年は、完全に遭難していた。
 ぬかるんでいる道は、容赦なく足に絡みつく。
 今、どこにいるかもわからない。
 不安と疲労から、ついに足を止めた。
 じくじくと、動かなくなった足は泥に沈んでいく。
 それは、地面から生える手を想起させた。
 
 
 そして、そのイメージは現実に直結する。
 ただの泥かと思われた地面から、幾つもの手が生えていた。
 それは、大小や形状のすべてがバラバラ。
 
「ヒィッ……!」

 それは、生き返った死体を連想させた。
 淡い紫色の光に包まれたソレに、少年は目を見開く。
 先ほど、「厄神様」が率いていた流し雛。
 人形が動くということよりも、その禍々しい光は本能的な恐怖を呼び起こす。
 
「あら、また人間?」
 
 若い、無感情な声が響いた。
 少年は、涙と鼻水で濡れた顔をそちらへ向ける。
 全く光が届かない、闇の中であるにも関わらず彼女がいる場所がわかった。
 流し雛よりも、何倍もの光が彼女を包んでいたからだ。
 「厄神様」。
 
「だめじゃない。人間が、こんなところに来ちゃ」

 諭すような、優しい声色。
 事実、彼女は人間の益になる神である。
 人間を害するなら、とうに疫病神扱い。
 ただ、それは領分を侵さなかった人間の話。
 領分を侵した人間の話は、誰も知らない。
 何故ならば――――
 
「家に、帰れなくなっちゃうわよ」

 ――「厄神様」の道は、彼岸に続く黄泉路なり。

 もはや、悲鳴すらも出てこない。
 カチカチと、寒さとは違う感情が歯を鳴らす。
 少年には、「厄神様」が別のものに見えていた。
 「厄神様」に巻きつくリボンが、風になびく。
 僅かな木漏れ灯で、表情が垣間見えた。
 少年は、見た。
 すでに、ご利益など関係ない。
 目の前にいるのは、まぎれもなく。
 
 ――逢ってしまえば、二度と帰れぬ。
 
 三日月のように歪んだ微笑は、迎えに来た「何か」に違いなかった。
 
 
 
 ∬∬∬
 
 
 
「毎年、申し訳ない。鍵山さんには、本当に迷惑をかける」
「いいのよ、毎年のことだし」

 程なく、気絶した少年は樹海入り口で慧音に保護された。
 運んだのは、流し雛軍団新入りの面々である。
 
「まぁ、これでしばらくは近寄らないでしょう」
「努々、近づかないようにとは言っているのです。今回も、注意はしていたのですが」
「でも、笑いかけただけで気絶なんて失礼しちゃうわね」

 腰に手を当てて、怒りを表現する雛。

「それだけ、怖かったのでしょう。何気ないものでも、見た時によってかわりますから」
「今回は、そういうことにしておいてあげるわ。次来たら、本当に知らないからね?」
「よく言って聞かせておきます……」

 慧音は、そう言って樹海を後にした。
 残るは、流し雛と軍団長の雛のみ。
 再び、樹海は無人の静寂に戻った。
 
「さて、貴方たちの厄を集めなきゃね」

 そう言うと、雛はくるりと体を回す。
 スカートがふわりと翻り、優雅な風を醸し出す。
 同時に、流し雛からは厄が流れ出す。
 それは雛の回転に乗り、溜め込む厄に合流した。
 数十の軌道が描く模様は、幻想郷では見られない渦模様。
 誰もいない樹海の中で、小さな花が咲いた。
 
「今年も、無事に終わり」

 厄を吸い取り終わったところで、流し雛は糸が切れたように倒れた。
 雛は、流し雛を操っていたわけではなく厄を操作していただけ。
 傍目には、流し雛が動いているように見えるのだ。
 
「次に人間が来るのは、いつになるでしょうね」

 楽しそうに、少しだけ憂いをこめて雛は笑った。
 厄神は、厄を溜め込むがゆえに人間に近づくことは出来ない。
 人のためでありながら、人に疎まれる。
 雛は、そのことを恨んだことはない。
 自分の役割を、ただただこなし続ける。
 
 
 ∬∬∬
 
 
 「厄神様」の通り道
 誰も通れぬ、神の道
 近寄ってはならぬ、ついて行ってはならぬ
 厄に当てられ、不幸になる
 
 「厄神様」よ、どこへ行く
 くるりとまわり、どこへ逝く
 人の厄の、あるところ。
 人のために、なるところ。

2010.03.07 | | Comments(0) | Trackback(0) | 未分類

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